※すみません、お金とは関係のない話です。
自分の中学の同級生に、Eさんという女子がいた。
自分は当時、さん付けでは呼ばず、単に「E」と呼び捨てにしていた。
中学3年間、なんとずっと同じクラス。
だからEの性格はよく知っている。
映画「かがみの孤城」に出てきたいじめっ子に似ている。
まあまあかわいくて、はっきりした物言いで、友達が多く、攻撃的。
Eに体育館の裏でシメられた女子は片手じゃきかない、と噂で聞いた。
たぶん本当だろう。
そんなEだから、不良男子と仲良かったが、彼氏はなぜか真面目でおとなしい、長身のイケメンだった。
自分は、Eから見れば「悪い奴じゃないけど根は暗い奴」ぐらいだったんじゃなかろうか。
少なくとも3年間、幸いにもEから攻撃されることはなく、むしろ好意的ですらあった。
Eとの思い出が一つ。
中3の2学期。
国語の授業で自分は先生から難問をぶつけられ、しかしあっさり正答し、ちょっとクラスがどよめいた。
自分、ちょっと天狗。
その授業の後、Eから話しかけられた。
「ねえアリュー、アリューの兄弟の中で誰が一番頭いいの?」
自分には兄弟が2人いて、同じ中学校に通っていたことをEは知っていた。
「俺!」
そう即答すると、Eはものすごく嫌な顔をして自分を横目で見た。
その顔がおかしくて、今思い出しても笑ってしまう。
中学卒業後、自分はまあまあの進学校に進み、Eは女子高に行った。
卒業後、会う機会はなかったが、再会は意外に早かった。
高校1年の秋。
部活の帰り、自分は友達と高校近くのサーティワンに寄った。
Eはそこでバイトしていた。
「なんでこんなとこでバイトしてんの!」
自分の高校は、Eの高校からも自宅からも遠い。だから不思議だった。
「んー、ここの制服がかわいいから、かな?」
そう言われれば確かに、その制服もあってEは中学のときよりかわいく見えた。
そしてそのあと、Eから驚くべき話が出た。
「ところでアリュー、今度ウチの高校で文化祭あるんだけど来ない?チケット余っちゃってるの」
「いやいいよ!そんな物もらったら悪いよ!」
鈍感な自分でも、女子高の文化祭チケットが貴重なものとは知っていた。
女子高の文化祭は、チケットがないと入れない。
怪しい男の侵入を防ぐためだ。
チケットは在校生1人につき、4~5枚だったはず。
つまり在校生の家族分を除くと、彼氏、彼氏候補の分しか残らない。
自分がそうじゃないことは、Eもわかっているはずだ。
「余っちゃってるからいいの。今アリューがもらってくれないと、捨てることになっちゃう」
そこまで言われたら、もらわない理由はない。
男子高校生の自分にとって、女子高の文化祭と言えば、竜宮城も同然だから。
憧れの女子高文化祭。
しかし、実際行ってみると意外に楽しくない。
よく考えたらそりゃそうだ。
女子だけで盛り上がっているところに男子が行っても、単にアウェー感を感じるだけ。
その場で友達になる(要はナンパ)能力のない男子が楽しめる場所じゃなかった。
Eとも会えなかったし。
自分は友達と30分くらいで一通り回って、やることないんで、開放されていた卓球台で男二人で卓球して帰った。
その後、自分はサーティワンに行くことがなくなり、Eと会うことはなかった。
確か、文化祭のお礼も言ってないんじゃないかと思う。記憶にない。
しかし、Eはその後なんと、ウチの高校の同級生とつきあい始めた。
背が高くて、ちょっと遊び人風の奴。顔はまあまあ。
なかなかお似合いだった。
そしてその1年後、また別のウチの同級生とつきあい始めた。
今度はもっと背が高くてイケメン。ルックスならウチの学年で一番だろう。
ここまで来たら、さすがにニブイ自分でもわかった。
ウチの高校の近くでバイトしてたのも、自分に文化祭のチケットをくれたのも、投資だったのだ。
目的はもちろん、ウチの高校のイケメンとつきあうため。
文化祭のチケットは、まだターゲットがいなかったため、「アリューの友達のイケメンに繋がれば」といった感じだったのだろう。
しかし、自分は投資としては不良銘柄だった。
しかし、彼女はそれにもめげず、見事に目的を達成した。
敵ながらアッパレ、そんな気分だった。
一度だけ、Eとそのイケメンが歩いているところにすれ違ったことがある。
Eは得意げに、目を合わせずに小さく自分に手を振ってくれた。
さて、なんでこんな話を長々と書いたかというと、つい先日、高校の同窓会に行って、Eの話が出たのだ。
驚くべきことに、Eとそのイケメン君はその後結婚したそうだ。
しかも、さらに驚くべきことに、Eはもうずいぶん前に亡くなってしまったという。
自分はなんとなく、中学での学校の成績がEより良かったから、Eより上にいるような気分でいた。
思い上がりもはなはだしい。
人生を楽しむ、人生を使い切るという点で、Eにはるかに負けていると思った。
E、見ていろ。
これから取り返してやるから。
とりあえず、Eに合掌。